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特集#12 「独自の世界観の中、意外なほど原作に忠実な作品。亡くなった吉田竜夫さんに見てもらいたかったなぁ。」アニメ監督 / 笹川ひろし

笹川ひろし(ささがわ ひろし)プロフィール

1936年7月9日、福島県会津若松市生まれ。漫画家・手塚治虫の専属アシスタントを経験後、1958年に漫画家デビュー。漫画家仲間の吉田竜夫らによって設立された竜の子プロが初のテレビアニメを作ることとなり、『宇宙エース』参加を機にアニメの世界へ。以後、ディレクターとして草創期の竜の子プロの発展に尽力し、『マッハGoGoGo』『ハクション大魔王』『新造人間キャシャーン』など、数多くの作品を生み出す。放送中の新作『ヤッターマン』では旧作に引き続いて総監督を務めており、現在も第一線で活躍するクリエーターである。

7月5日(土)に公開となる『スピードレーサー』は“映像革命を起こした”と評された『マトリックス』三部作以来となるウォシャウスキー兄弟脚本・監督作。最新の視覚効果で革新のスピード世界を描き出した、爽快な娯楽作品だ。1967年に竜の子プロによって制作された、日本の自動車アニメの草分け的存在である『マッハGoGoGo』を原作として作られたこの作品。では原作に携わった人間から見たとき、どんな感想を抱くのだろうか? 今後続々と制作が予定されている「アニメの実写映画化」についての想いも含め、原作者・吉田竜夫とともに『マッハGoGoGo』に演出・監督として参加し、その後も多くのアニメを手がけてきたアニメ監督・笹川ひろし氏に話を聞いた。

『マッハGoGoGo』の演出家から見た『スピードレーサー』

──オリジナル原作である『マッハGoGoGo』に演出として携わられた笹川さん。まずは、『スピード・レーサー』という作品を見られての率直な感想をお伺いします。

笹川: いやぁすごいなぁ、と(笑)。まるでジェットコースターに乗せられているような、まさに息つく暇もない、という感覚で。すごい映画を作ったもんだなぁ〜というのが第一印象でしたね。ただ、見ていくと主人公の家族構成の部分とか、覆面レーサーが重要な鍵を握っているところとか、意外に原作、特に『マッハGoGoGo』第一話に忠実に作られているなぁということは感じましたね。まさかこれは出ないだろうと思っていたチンパンジーが出てきたりね。

──今回『スピード・レーサー』を撮ったウォシャウスキー兄弟が、原作の大ファンということで実現した企画だとか。その辺りの事情やファンとしての思いのようなものも関係あるのかもしれませんね。

笹川: そうでしょうね。実はこれまでも3回ほど「映画になる」という話があったんですよ。一度は「キャストも決まっている」というニュースも入ってきたのに、結局実現には至らなかった。今回はきっちり完成しましたんで、非常に嬉しかったですよ。

──逆にオリジナルとのギャップ、違和感などは感じられませんでしたか?

笹川: 最初見たときは、アメリカには本当にこういうカーレースが存在するのかと思いましたよ。見ていくうちに、「あぁ、これは今のお話じゃないのか」と(笑)。結局、世界観なんでしょう、これはうまくやったなぁと感心しました。
というのも、我々タツノコプロも実際、5〜6年前に『マッハGoGoGo』のリメイクをやったんです。しかし規制といいますか、例えばシートベルトは必ずしなきゃいけないとか、チョッパー(回転するのこぎり)で森を切り拓いて進むシーンでは、勝手に木を伐採していいのか、とかですね。そもそもマッハ号に付いてる7つの装置は他のクルマには付いてないわけですからルール違反なんじゃないのか、とか、とにかくやりづらくて(笑)。

──ルール違反!(笑)

笹川: それで1クール終わったところで、マッハ号がスピードを出し過ぎて過去にタイムスリップしてしまう、という設定にしたんです。これでかなり自由に舞台設定が行えるようになり、やり易くはなりましたね。
そんなこともあって、マッハ号ってクルマは面白いんですけど、なかなかまともなレースができないんですよ。その辺をどうクリアするのかなぁと思っていたんですが、近未来というあの設定なら大丈夫ですからね。また家の中のシーンなんかでも、背景などすごくよくできていて。世界観を作っていました。リアリティを持たせ過ぎてもただのアクション映画になってしまうし、「まぁこの辺りなんだろうなぁ」というところに落とせていたと思いますよ。ときどき「マンガじゃないか!?」と思う場面もありましたけど、それでいいんですよね、元がマンガなんだから(笑)。でもあんな世界、ハリウッドでもクルマの映画は何本もありますけど、これまでなかったと思いますね。

──今回の実写化や制作に関して、アドバイスを求められたり、タツノコプロが関わった部分というのがあるのでしょうか?

笹川: それはまったくないですね。以前『新造人間キャシャーン』を実写化したときは、監督の紀里谷さんが当社に直接お越し下さってお話をしたりもしたんですが、ウォシャウスキー兄弟に会ったということはないですね。完成した試写を見るまでまったくノータッチでしたから、けっこうドキドキしてました。主題歌もそのまま使われてますし、しっかりと吉田竜夫の名前もクレジットされてまして、それがすごく嬉しかったですねぇ。亡くなった吉田竜夫さんに見てほしかったなぁと思いましたよ。

──『新造人間キャシャーン』『マッハGoGoGo』など、様々なタツノコ作品が実写化されています。今後の流れは?

笹川: 一時期、『新造人間キャシャーン』に続いて『鉄人28号』や『忍者ハットリくん』などが実写化されて、アニメの実写化が今後進んでいくのかなと思ったら、一旦止まってしまいましたよね。それが今回の『マッハGoGoGo』以降、『ヤッターマン』も実写映画化が決まって、これからどんどん増えていくんじゃないのかなぁと思っています。結局、面白い企画や脚本を探していくと、マンガやアニメに行き着くのではないかと。
でも面白いですよね。僕らアニメを作りながら、よく「実写も撮ってみたいよね」なんて話をしてたんです。キャストは誰がいいだとか話したり。でもこの間、『ヤッターマン』の撮影現場にお邪魔してきたんですけど、やっぱりすごいですよ実写の方々の考えてることは。このときの撮影現場ではいろいろ面白い話もあったんですが、それはまたの機会ということで(笑)。

──それでは話題を変えさせていただきまして(笑)。原作である『マッハGoGoGo』を制作されていた当時の、作品に込められた思いや、伝えたかったメッセージなどをお聞かせください。

笹川: 当時、吉田竜夫さんがカーアクションものの『パイロットA』というマンガを描いていたんですよ。それを元にしてアニメを作ろうということになったんですが、吉田竜夫流のリアルな絵柄をアニメーションにするなんていうことは、当時のアニメ業界の中では常識の範囲外だったんですね。日本のアニメーションのスタートが『鉄腕アトム』だったということも影響があるのでしょうけど、とにかく省略、いかにして動いてないものを動いているように見せるかを考えるのがアニメだ、という感覚なんです。ですから「この画はちょっと描ける人がいないんじゃないですか」と反対したんですよ。

──笹川さんも、反対されたんですか?

笹川: 実は私も、リアルな画というのはダメだったんですよ。元は手塚治虫系の漫画家ですから。それで自分で描くわけにはいかないし、アニメーターさんたちは「こんなのアニメじゃない」が常識。それでも吉田さんは「いや、俺は独立プロを作ったのはこれをやるためだ」って言いますしね。間に挟まれて大騒ぎしたこともありましたね。まぁ最終的には「社長がそこまで言うんならやりましょう」とみんなを説得してやりましたけどね。でも大変は大変でした。始まってみたら案の定、なかなか上手に描けないわけですよ。それまでマンガっぽい絵ばかり触ってきたアニメーターさんですから、いい顔が描けない、同じマッハ号でも妙に細長いのが上がってきたり、平べったいのが上がってきたりで(笑)。竜夫さんが朝から晩まで一枚一枚描き直してましたよ。社長業をしながら、朝来るとすぐ部屋にこもって作業してね。
ちょうどカラー放送が出始めの時期で、両方のテレビでよく見えなきゃいけない、風防やマッハ号のテカリを表現するのにエアブラシで塗装したり。そんな風に苦労の連続でしたけど、今までにないものを世の中に生み出そう、ということで一年間やり通しました。それが後にガッチャマンになり、キャシャーンになり、リアル路線のアニメができる自信になりましたね。

──「今までにないもの」を世に出したとき、世間の反応はいかがでしたか?

笹川: 反応はねぇ、確か最初の方は鈍かったですよ。2週ぐらいスポンサーも付かなかった気がするなぁ。『マッハGoGoGo』がまだ放送2、3回目のときですね、とあるイベントをやったんですよ。司会の方が会場に「みんな見てるかー?」って振ると、いじわるな子供たちが「見てねぇー!」って言うんですよ(笑)。あれは強烈でしたね。空気読んでくれないですから。
やっぱりテレビアニメっていうのは丸っこい、描きやすいキャラクター、要はマンガだったわけですね。そんなところに、劇画タッチの、しっかりしたストーリーの作れるキャラクターを出したわけですから、視聴者の皆さんも戸惑ったんじゃないですか。

──ところがその後、『マッハGoGoGo』は、タツノコプロ始まって以来の大ヒットとなるわけです。どんな瞬間に「ヒット作」を実感しましたか?

笹川: やっぱり手紙が来たり、子どもたちが「セルくれ〜」って来るわけです。始まった頃は「見てねぇー」って言ってた子どもたちがね(笑)。
タツノコアニメとしてリアル路線を築いたこともそうですし、他の会社でも続々と劇画タッチのしっかり描けるアニメが作られましたし、現在の「あえてリアルと言わなくてもリアルな」アニメの世界のルーツを辿ると、『マッハGoGoGo』に行き着くんじゃないでしょうか。これがいつまで経っても「マンガ映画」の世界だったら、今のアニメ界はなかったかもしれませんね。

──アニメ制作の現場から見て、アニメーション作品の実写映画化に対する思いは?

笹川: いや、どんどんやってほしいですよ。アニメじゃなきゃいけないってことはないと思います。私自身も「これからは実写も撮れるようにしましょう」と会社に提案したこともありますし、アニメーションの中に実写を取り入れたりといったことは、試したことはあります。やはり憧れはありますよね。実写は茶わん一つにしても、その場にあるものを撮るわけですから、説得力が違いますよ。だからどんどん、実写化もしていけばいいと思いますね。
ただせっかく劇場で見る、実写の映画にするのであれば、大人の方にも楽しんでもらいたいですよね。そのまま作ったら子ども向けになってしまうアニメ作品の、大人向けと子ども向けの境界線をどこで引くか。今回の『スピード・レーサー』に関して言えば、大人も子どもも楽しめる、ちょうどいいところにある作品なのかな、と思いますよ。ただね、年取った人にはちょっとつらい。サービス精神が旺盛で、それは素晴らしいことなんですけどね(笑)。

それまで「マンガ風」の絵柄が常識だったアニメーションの世界に、劇画のタッチを導入して映像革新を起こした『マッハGoGoGo』×『マトリックス三部作』により、スクリーンに映像革新を起こしたウォシャウスキー兄弟。このケミストリーはきっと次なる映像革新を生み出すはず。『スピード・レーサー』から目が離せない!

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